昨日の晩、同じ会社の寮生後輩が風邪で仕事を休んでいる為に、様子を見に行こうと、先輩の彼氏に寮まで送って貰った。
けれど、寮に着くまでの間に本来の目的を忘れてしまって、
代わりに、他の先輩に貸して貰いっぱなしで忘れてたドレスを持って、ダーリンが待つ家に帰ろうと、寮から出てしまった。
ダーリンの家に帰る為には、タクシーに乗る。
以前、鍵を無くした事もあってタクシー会社の名前と、タクシーの運転手の名前をメモした。
何かを忘れても、良い様に。
家に帰れば、ダーが布団に包まって気持ち良さそうに寝てる。
その姿を見て、あたし自身も眠気に襲われて寝る事にした。
目が覚めたのは9時半。
当然ダーは仕事の為に、既に家から職場に出ていて、いない。
あたし自身も用事がある為、出掛ける準備をした。
までは良かった。
鞄の中に入れた筈のポーチが鞄の中になく、部屋中を探した。
でも見つからないので、寮に戻ろうと地下鉄に乗った。
けれどあたしは、寮の帰り方すら忘れて、反対方向の電車に乗ってしまったのだ。
大丈夫、遠回りしたって、辿り着く場所はそこだから。
自分に言い聞かせながら、時間を掛けて寮に戻った。
けれど、自分の部屋にもポーチが無かった…。
洗面所、布団の回り。
部屋の至る所を捜してもポーチが見付からなかった。
大丈夫、大丈夫だよ。
そうやって何度自分に言い聞かせても、気持ちは焦るばかり。
仕舞いには、ダーの家の帰り方すら忘れてしまって、電車の中で泣いてしまいそうだった…。
乗り換えは一本。
なのにかかわらず、何度も乗り換えを繰り返して、やっとの思いで目的の駅にたどり着いた。
その時既に、自分がどうやって此処まで来たのかすら忘れた。
思い出したのは、ダーの家に帰って来て数分後のこと…。
ポーチの存在も思い出して部屋中を捜した、でも無かった。
ポーチには、大切なお客様の名刺や名簿が入っている。
それを忘れてたショック、何処に忘れて来たのか判らないショックから、また泣きたくなった…。
そんな時に、ダーからの電話。
とうとうあたしは、泣き出してしまった…。
悔しい、苛々する、情けない。
そんな思いが、涙に変わった。
記憶障害と向き合ってこれた筈なのに、自分の記憶を忘れて行く事が辛くて仕方が無かった。
ねぇ、利…。
記憶障害を持ったあたしで、本当に良かったですか…??
本当に、あなたの名前や顔、仕種まで忘れてしまうんじゃないかと、不安でたまりません…。