「りーっちゃん」
「おー莉乃ちゃん、おはよー」
「おはよ。久しぶりだね」
「こっちのセリフですー」
あはは、と隣であがる笑い声。
今日は、仕事の前に久しぶりのデート。
最近はコンサート以外で会う機会もめっきり減ってて、
だから莉乃ちゃんに会うこと自体が久々だ。
うーん、やっぱり実物が一番っすなあ。
バッチリメイクじゃなくても普通にかわいいわー…
「…ちゃ、りっちゃん!」
「ほえ?」
「ほえ?じゃないよ、指原の話聞いてた?」
わー、指原さんふくれっつらになっちゃったよ。
「…何の話でしょーか」
「やっぱり聞いてない」
「ごめんよ、もう一回言っておくれよー」
「だーかーらー、どこ行くの?りっちゃんから誘ったんじゃん」
「あ、まだ言ってなかったね。
スイーツがおいしいカフェ見つけてさ、そこ行きたいの。ちょっと遠いんだけど」
「そうなんだ、じゃタクシーで行こうよ。指原さすがに歩いてく勇気はないよ」
いくら平日の昼間と言っても人はそれなりにいる訳で。
うちらも一応芸能人の端くれだから、見つかったらきっと騒ぎにはなる。
特に莉乃ちゃんなんかやばい。
キャップかぶってるくらいじゃごまかせないんです。
恐ろしいねー、情報化社会は。
「すいませーん、ここまでお願いします」
タクシーに乗り込んで、運転手さんに地図を見せる。
後部座席のシートに身を預ける。
何を頼もうかなー。うーん、今からワクワクしてきた。
「お姉さんたち、姉妹?」
不意に運転手さんに声をかけられた。
思わず、莉乃ちゃんと顔を見合わせる。
姉妹。
そんなこと、久々に言われた。
昔は結構似てたから、姉妹だの双子だの言われてたけど。
「あ、はい」
「そうだよねぇ、よく似てるもん」
「あはは、よく言われます」
「ねー」
なんだか懐かしくて嬉しい。
莉乃ちゃんも、ちょっといたずらっぽく笑ってて、考えてることは一緒みたいだった。
運転手さんには悪いけど、たまにはこういうのもありだよね?
質問を投げかけてみる。
「どっちがお姉さんだと思います?」
「うーん、難しいなあ……
でもあなた、大人っぽいから、そっちの可愛いお嬢さんが妹、かな?」
「妹だって、莉乃ちゃん」
「ふふ、りっちゃんお姉ちゃんかー」
「あれっ、ってことは逆だった?」
「さあー、どっちでしょうか」
「秘密でーす」
「ははは、秘密か。いやー、でもいいねぇ、二人ともべっぴんさんで。
こんな美人姉妹がいて、親御さんが羨ましいよ。はい、ここね」
「あ、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
代金を払ってタクシーを降りる。
ドアが閉まったとたん、莉乃ちゃんが声を立てて笑った。
「姉妹だって」
「びっくりだねー、なんか」
「ほんと、いつぶりって感じ」
窓際の席に向かい合って座る。
「……おねーちゃん、か」
「……なにニヤニヤしてんの、りっちゃん」
「いやー莉乃ちゃんが妹だったら毎日の生活に潤いが…」
「……変態の妹なんか絶対やだ」
ジロッと睨まれた。
しかもさりげなく「変態」って。
事実なのは否定しないけどね。
メニューを流し読みしながらまだ続く話を聞く。
「それに、りっちゃんがお姉ちゃんだったらおやつで絶対喧嘩になるし、
部屋一緒だったらうるさそうだし」
あ、このミルクレープおいしそう。
でもフルーツタルトも捨てがたいしパンナコッタも……
「ずっと一緒にいるとか、心臓もたないっつーの……」
え?
がばっとメニューから顔をあげると、耳まで赤くなった莉乃ちゃんがそっぽを向いていた。
「は、はやく頼みなよっ」
「莉乃ちゃんかわいいーっ!」
「うっさい!もう、変態!!」
もっとはやく気づけてれば。
このこは、こんなに、傷つかなくてすんだのかな。
守る力は、十分あったはずなのに。