雫石純という少年がいる。
いるのだ。いるったらいる。
最近目立った動きがないだけで、相変わらず彼は日頃の活動を続けている。
では、彼はどのような活動をしているのか。
それは悠花のファンとしてライブに来たり、CDを買ったりというものである。
思い出して頂けただろうか。
小学生の言葉責めにあっていた悠花を助け、流れでメアド交換をし、好きなアイドルから下品なメールを送られても動じないファンの鑑のような13歳の男子。それが雫石純である。
しかし、そこで疑問が生じる。
白石悠花のどこがそんなにいいのか。
そう聞かれた時、彼はこう答える。
「悠花さんのしてる二つ結びって幼く見える髪型だと思うんですけど、悠花さん自身は凛としていて、大人っぽくて。笑うときとかも何か余裕があるというか、風格が。あ、でも番組内でトークしたり美穂さんとケンカしたりしてる時はむしろ普通の中学生っぽかったりなんかして。ギャップですよ。ギャップ。そこでかっこいいとか憧れの対象であると同時に、可愛いなぁって。そういう気持ちが芽生えてくるんです。あと声も好きですね…これがまたたまら」
彼の言葉に嘘はないのだろう。悠花の見た目には華があるし、アイドルをしている悠花を第三者が客観的に見るとこういう感想になる事も有り得る。
白石家の人々がこれを聞いたらきっと宇宙人に遭遇したかのような反応をするだろうが。
「そりゃきっと変態だわ」
と、断言するのはココロンメンバーの片瀬美穂である。
番組の収録も終わり、のんびりと楽屋で雑談しているうちに純の話になっていたのだ。
「きっとドMか何かなんじゃないかね。とりあえず悠花のファンなんて屈折してるに違いない」
「檸檬、これこれ。結構マメな文じゃない?」
訳知り顔で語る美穂を尻目に悠花は檸檬に純から来たメールを見せていた。
「お〜。そうだねえ。ライブの感想とか参考になるなあ」
「無視すんな!!」
「あ、美穂。いたんだ」
「なっ。い、いるっつのそりゃ!」
「存在感ないからつい…」
「ダラァッ」
悠花の言葉をきっかけに、二人の小競り合いが始まった。
女子が直接相手を攻撃するようなケンカをする局面というのはかなり緊迫感のある場合が多いのだが、この二人の場合はただただアホらしいというか間抜けだ。
「まーた…。ケガしないようにね!」
そんな二人に檸檬は優しく声をかける。
ココロンの中学生トリオ唯一の良心っぷりは今日も健在である。
「オリャッ」「どりゃ」「うぉあ」「あぶなっ」「このっ」「フガ、フガガ」
結局美穂は悠花に押さえ込まれ、鼻に指を突っ込まれ変顔をさらけ出すという敗北っぷりであった。
「フハハ、弱い、弱すぎる」
「ぐぬぬ…!今日はたまたまだし!バーカバーカ!」
「とりあえず二人とも座っ…」
檸檬がアホ二人にそっと手を差し伸べたその時、誰かの携帯が鳴った。
「あ、アタシの」
そう言いながら悠花は美穂を押しのけ、自分の携帯を確認する。
どうやら電話ではなく、メールが来ていたようだ。
「誰から?」
「ん、さっきの…純くん。CD買ってくれたってさ」
「おぉ、やっぱりマメだなぁ。見せて見せて。美穂も見る〜?」
「はあっ?誰が…。…いや、どんな変わり者なのかちょっと…」
そうして檸檬と美穂は携帯をのぞき込む。
そこには相変わらず丁寧な感想と悠花のファンとしての思いが綴られていた。
「かっこいいとかかわいいとか言ってるけど…。可哀想に。騙されている事を知らない訳か」
「にしても、ほんと筋金入りのファンだね〜。私も会いたいな〜」
「アタシもある意味会いたいかも。ってか会おうよ。そして悠花のファンなんてバカな真似をやめさせよう」
「おいお前アタシのファンの何がバカなんだオイ」
そんな悠花の言葉を無視して美穂は光の速度で携帯を操作する。
「よし、メール送信っと」
「ちょ、おまっ」