地下空間での攻防は続いているのだが、不穏な気配がしていた。
畝黒(うねぐろ)怪人態の触手を再生出来ないように装置を使い凍結させることで、封じていたのだがどうもさっきから切断されて凍らせた触手から「ミシ…ミシ…」と音がしている。

凍結装置が持たない!


囃(はやし)はヘトヘトになりながらも渾身の一撃を与え、ふらふらしながらも御堂達に任せる形に。
「……後は頼んだわ。…スタミナ切れみたいだ」

囃は陽一に回収された。陽一は御堂と晴斗を見る。
2人で翻弄させてるみたいだが、なんでブレードを発動させない?


嫌な予感は的中してしまう。凍結は中継ぎに過ぎなかった。
ミシミシ音を立てて割れる氷。氷が勢いよく飛んでくる。それと同時に切断された全ての触手が再生してしまう。

触手は同時に4本展開→縦横無尽につけ狙う。避けるだけで精一杯の御堂達。
よく見ると触手の先端には、蕾のような形で何かを発射出来るようになっているではないか!


一気に劣勢になる一同。さらに畝黒は右手を大きく翳した。

マズイ!!


とっさの判断で宇崎はブレードのある機能を使った。

それはバリア。このバリアのおかげで御堂達はダメージを受けずに済んだ。


「室長、なにこれ!バリア!?」
晴斗の声が上擦ってる。

「いいから集中しなさい。俺はバックアップするから。陽一は囃を見る必要があるでしょ。
囃は発動100%を何回も使っていたからスタミナが切れたんだね。和希、人使いが荒いぞ」


劣勢なのになんで余裕な言い方をしてるんだ?あ、元々室長はこんな感じだった…。


宇崎は触手よりもあの右手を封じたいと思っていた。

凍結により触手は一定時間止めることが出来たが、あの強力な攻撃の契機となる右手はまだ攻略法がない。



彼の対怪人用ブレード・颯雲(そううん)にはある思いが込められていた。
このブレードに関しては、1番最初に作られたプロトタイプを元にしている。

そのプロトタイプを考案したのが蔦沼だった。
対怪人用ブレードが出来た経緯は約15年以上前に遡る。ファーストチームから特務機関ゼルフェノアに名称が変更した頃だ。


それまでは既に存在している装備で怪人と戦ってはいたのだが、専用装備がないと決定打にならないと見た蔦沼(当時:司令から長官に移行中)は後輩の宇崎と共に試行錯誤した。
トライ&エラーを繰り返し、ようやく完成したのが「対怪人用ブレード」。基本的に日本刀型だが、使い手に合わせてオーダーすることも出来る。

このブレードは全隊員には支給せず、希望者のみに専用のものを作る形を取った。それにより、個性的なブレードが誕生。


プロトタイプを元にした颯雲は、長官が1番最初に作ったブレードを参考にしている。デザインもかなり初期型に近い。

使い手の力を発揮する「発動」は実用化から実装されたため、初期のものにはない。
陽一のブレード・燕暁(えんぎょう)はその初期〜実用化の間に出来たため、発動しなくてもそこそこの威力が備わってある。



宇崎は果敢にも飛び込んだ。バリアがある今なら行ける!
長官の仇を取らせてくれよ…!



時系列は少し戻る。宇崎と陽一がヘリで研究施設へ行く直前、西澤からある知らせを聞いた。


それは蔦沼の怪我の具合。

義手が破壊されたのは安易に想像出来たが、この時点では検査しないと再起不能になったのかはわからずにいた。


秘書兼SPの南が見た蔦沼は明らかに重傷。ベッドの上でうわごとを言っていたらしい。意識ははっきりしていた。
だが、立てないような状態にも見えた。再起不能になったのだろうか…。まだ報告が来ていない。

西澤は移動前の宇崎にこんなことを伝えていた。
『長官はこれを機に引退するかもしれませんよ』…と。



時系列は現在。


宇崎はやけくそ気味に攻撃を仕掛けてはやられてる。

どうにかしてあの右手を封じたい…!あれさえなければ…。だがなかなか近づけない!


再び右手を翳す畝黒。気のせいだろうか、笑っているようにも見える。
地下深くに突入する気か!?

宇崎はギリギリ御堂と晴斗をまとめて攻撃から避ける。これには2人も驚いていた。


室長!?


彼はギリギリ避けきれなかったらしいが、まだ戦えた。眼鏡にヒビが入ってる。
彼の眼鏡は防弾仕様だが、畝黒の威力には敵わなかったようだ。

「御堂・晴斗、先にやつの右手を封じろ…いいな」


右手を封じろ?
んなこと言われてもなかなか近づけないんだけど!?

なんとかして懐に入り込めば、行けるかもしれないが…。長官はその方法を使ったことでダメージを受けている。


「御堂さん、俺行くよ」
「晴斗…本気かよ……」

「俺なら小回りも効くし、可能性は低いけどゼロじゃないよ。やってみなくちゃわからないじゃんか」


晴斗は時々鼎と似たようなことを言う。影響受けすぎてるよ…いい意味で。


宇崎は再びバリアを展開する。どう見ても流血しているが。

「今だっ!!突っ込め!!」
晴斗は合図と共に自分のブレード・恒暁(こうぎょう)を秒速発動。刀身が青く光る。


この光は辺りを浄化するような温かみがあった。
そこにすかさず御堂も畳み掛ける。

「出番だぞ」
彼は鼎のブレード・鷹稜(たかかど)に話しかけた。すると刀身が赤く光った。発動されたのだ。


鷹稜は恒暁とは対照的で、発動すると攻撃力が上がる。
刀身が赤ければ赤いほど、威力は増す。限界まで攻撃力を上げたらどうなるのだろうか、そんなこと考えてる暇はない。


「御堂さん!早くっ!!」
晴斗は猛ダッシュで刀身の青い閃光を利用し、畝黒の懐へと入り込む。そして、目眩ましをしている隙に右手のひらを突き刺した。

晴斗はギリギリとブレードを食い込ませる。
「まだまだー!!」


青い閃光は増していた。辺りは青い光と赤い光に包まれている。

晴斗は一気にブレードを引き抜いた。畝黒の手のひらにある攻撃の契機となる、丸い紋様を消し去った。
まだ体力が残っている晴斗は畝黒の右腕を切断。


晴斗は御堂に選手交代した。


「み…御堂さん……後はよろしく」
晴斗はその場からふらふらと離れた。

「鷹稜!攻撃力最大にしてくれ!!ハイリスクなのはわかってる!!」
鷹稜は呼応するようにさらに光を赤く染めた。まるで炎のような光。


御堂も近接戦へ持ち込み、剣戟を繰り広げる。

畝黒はまだ隠し玉を持っていた。それは左手である。
「右手だけだと思ったか?人間よ」


御堂、追い詰められる。



本部司令室ではモニターのライブ映像が復旧。原因不明だが、謎のノイズが消えたため地下の状況がわかる。
そこに映し出されていたのは、今にも攻撃を受けそうな御堂の姿。


「和希っ!!」
思わず悲鳴のような声を上げる鼎。


モニターが復旧するまでの間、何が起きたかわからないが、いつの間にか劣勢になっていたのは理解した。

映像を見ると室長と囃がぼろぼろになっているではないか…。


陽一だけ、ほとんど打撃を受けてないように見える。


鼎は思わず目を伏せた。



地下では御堂が寸前で蹴り飛ばして回避。それもヤクザ蹴り。

蹴っ飛ばした…。


御堂は動ける陽一を動員することに。御堂が持つ鼎のブレードはまだ発動状態。行ける。
攻撃力を極限まで上げたせいか、消耗は半端ないが。


「陽一さん、行けますか…」
「なんのために力を温存していると思ってるんだい。このためだよ」

陽一は陽一なりに考えがあったようだ。


陽一は燕暁の刀身に何かをした。
今、刀身から音が鳴った?シャラララというウインドチャイムのような爽やかな音…。


燕暁に属性を付けるなら風。この音は合図だった。

陽一は燕暁をまるで指揮棒のようにたおやかに操る。


「御堂、連携しようか。君のブレードは攻撃力特化型・俺のブレードは風のようなものだ。
彼女のブレード、攻撃力最大にしてるなら今しかないでしょ。君がガス欠になる前に決着つけないとね」


もうガス欠寸前なんだが…。


陽一はひと振りで畝黒の触手を全滅させた。どうやらあの刀身から発した音は発動に相当する合図…らしい。
彼のブレードの見た目は変わってないのだが。


そこに御堂が畝黒の胸にブレードを突き刺した。
左手なんてどうでもいい。胸にあった核のようなものが引っ掛かっていたからで、無鉄砲にもいきなりそこを攻撃。


「行けえええええ!!頼むから鷹稜持ってくれよおおおおお!!!!」

鷹稜の刀身の色、赤い閃光は鮮やかに染まる。畝黒は予想外の猛攻に断末魔を上げ続ける。


御堂はさらに力を込めた。

「鷹稜、折れるなよ!!最後の仕上げだ!!」
御堂に呼応する鷹稜。辺り一面赤い閃光に染まる。まるで夕日のような綺麗な光だった。


彼はなんとか最後の一撃を喰らわせ、一気にブレードを引き抜いた。
と、同時に畝黒から大量の黒い血が流れ→御堂がその場からふらふらと離れた瞬間に大爆発を起こした。



ものすごい地響きが辺りに響き渡る。まるで地震のよう。


御堂はゼイゼイ言っていた。
「た…倒したぞ……」
「和希…無謀すぎだろうが…」


御堂と囃はハイタッチする。晴斗も陽一・宇崎と喜んだ。



本部司令室――

鼎と北川はずっとモニターを凝視していた。少しして。


「―――か、勝ったのか!?」

「…みたいだね。あの爆発は撃破したってことじゃないか。ほら」


映像を少し巻き戻すと、御堂がとどめを刺したことがわかった。
鷹稜の刀身の色が見たことのないような赤い閃光に染まっていた。綺麗な夕日のような、炎のような色に。


――攻撃力最大とか、和希らしい…。ハイリスクなのに。



ライブ映像では5人がぼろぼろになりながらも、互いを称えあう様子が映し出されていた。
和希の弾けるような笑顔が眩しい。晴斗は大喜びしてる。囃はテンションの高い2人にたじたじな模様。

宇崎と陽一は3人を見守っていた。





第14話へ。