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溢れ出る光

 蔵関さんの勤め先。誰も使っていない部屋がひとつ。
 なんの部屋なのかわからないが、入社以来一度も開いたところを見たことがない。

「開けちゃダメと言われたわけじゃないんです。それよりは『開けるもんじゃない』、そんな感じで暗黙の了解があった」

 鍵がかかっているわけでもないらしいが、誰も開けようとしない。
 気にはなるが、いちいち意識してられるほど仕事も暇じゃなかった。

 それが、あるとき。

「酷いミスがあって、下手したら部署ごと潰れかねないことがありました。当然、修正に追われて夜中の一時を少し過ぎた頃、もうクビかな、とか考えてたときです」

 開かずの部屋が光っている。
 扉から光が溢れ出ていた。

 誰かが使っているのか? そもそも電気が通っていたのか?
 そんなことを思いながらも、やはり蔵関さんはその扉を開けようとはしなかった。

 次の日。
 先輩に昨夜のことを話すと、酷く喜んでいた。

 状況が飲み込めなかった蔵関さんは相変わらずミスの修正をしていたが、想定以上にスムーズに仕事は運んだ。
 それどころか業績は予定より上がってしまった。

「お前が扉を開けなくてよかったよ、と。そんなふうに言われました」

 いつからそうなのかはわからない。
 ただ、あの部屋はある種、会社のお守りのようなものらしい。
 だから、誰も開けようとはしない。

「単に開ける気力がなかった、ってのもあったんですけどね」

 そう言って笑う蔵関さんは今年課長に昇進した。
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