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食べたものが見える

 浜崎さんは、食べたものが見える。
 食べたものが「食べられる前の姿」で、その人の後ろに浮かぶのだという。

「だいたい1日くらい。だから、その人の昼食や夕食なんかがわかっちゃう」

 牛や豚、鳥はもちろん、キャベツや人参、ブロッコリーまで。
 意識しなければ見えないので、日常的に気になることはないという。

「それ、本当ですか?」

「本当だよ。例えば鐘子ちゃんは……昼にしょうが焼きかなんか食べたね」

 思わず鐘子は閉口した。
 豚と生姜、それに玉ねぎも見えたのだという。

 面白い力だと思いながら、最近はあまり使いわない。

「どうして?」

「変なの見えちゃってさ」

 浜崎さんが表情を曇らせた。
 対する鐘子は少し笑う。

「わかった。ヒトかなんかが見えたんでしょう。まるで人食があったみたいな」

「そういうのだと、逆に非現実的過ぎて面白くなってくるんだけどなー」

 浜崎さんは心底嫌そうな顔をした。
 次の言葉、聞いた瞬間、鐘子は後悔した。

「ゴキブリだよ」

 しかも、よくよく意識してみると意外に多いのだという。

「寝てる間に顔の上に乗ってるって言うしなぁ」




 鐘子はしばらくマスクなしで眠れなかった。
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