これも米田さんの話。
小さい頃、米田さんの家はトイレが離れにあった。
トイレと母屋を繋ぐのは渡り廊下。
いたずらをしてよく怒られた米田さんへのお仕置きは、母屋から渡り廊下側への閉め出し。
暗い廊下の中で、なにも見えない空間を見つめては泣いたものだった。
その日も、じっと開かないドアに向き合って、反省……ということにしながら、両親の怒りが冷めるのを待っていた。
そんなとき。
手。
白い手が壁から出てきた。
びっくりした米田さん。
手招きをするように、ゆっくり動く、白い手。
驚いた米田さんは目をつむった。
そのまま、気絶。気絶しても、真っ暗。
「まぁ、母親がいたずらしてただけだったんだけどね」
米田さんは笑う。
鐘子は違和感を覚えた。
「と言うと?」
「ドアの向こうで、母親が手を動かしてるのが見えたし」
「……向こうで?」
真っ暗で? ドアは閉まってるのに?
「どうやって、見えたんです?」
「え、あぁ……まぁ、わからないけど」
気にもしない様子。
米田さんの記憶は、やはりどこか欠如している気がする。