なにかがこすれる音に、帰宅した秋篠さんは気付いた。
ちょうど、玄関のドアを開けるところだった。
驚き、振り向く。
なにか、なにかが階段を這い上がってくるのが見えた。
肌色の、布のよう。
ただ、まるで布の下には生き物がいるかのように、うごめいている。
秋篠さんのマンションは五階建て。彼は五階に住んでいる。
上ってくるなにか。
「物凄く、なんていうか、ただただ長くて」
ゆらゆらと、左右にゆれながら階段を這い上がっていた。
見下ろすと、一階付近にもなにかが。
「はじめは、もう一匹いるのかと。でも、違いました。あれは、そう、しっぽみたいなもんだったんでしょうね」
長い長いなにかは、そのまま屋上へ這っていった。
あとを追う気にはならなかった。