「小学校一、二年だったのかな?」

 春山さんの学校は、各クラスで金魚を飼っていた。

「一クラス、一クラスずつ。ひどいよね、子供って」

 誰がやったのかわからない。ただ、洗剤がぶちまけられていた。
 金魚の水槽に。

 生臭さと石鹸の匂い、それらが混じった異様な臭気。毎朝、どこかのクラスから悲鳴が上がった。

 そんな折。

「プールに浮いてたんだよ」

 春山さんのクラスの担任。明るく快活な男性教諭だった。
 その教諭が、漂白剤の匂いがするプールにぷかぷか浮かんでいたという。

 季節は夏。プールに水が張ってあっても不思議はない。
 ただ、ぶちまけられた漂白剤の理由はわからない。

 教諭は、仰向けに服を着たまま浮かんでいた。
 助け起こされ、呆けたように笑い出す。

「金魚を救おうとした、ってさ」

 オチはないよ。そう行って、春山さんは上着を羽織った。

 教諭がそれから精神病院に入院した、とか、自殺した、とか。そういうこともない。次の日からはいつもの教諭に戻っていた。
 ただ、事件以降放課後に帰るのが早くなったとか。

 それ以降、金魚が惨殺されることはなくなった。