深夜、袴田さんは目を覚ました。
昔飼っていた「ジョン」の臭いがする。もう十年も前に死んでしまった、大好きな愛犬。
「幽霊でも、会いたかったんです」
思わず、名前を呼ぶ。
目を開いて、辺りを見回す。
と。
「ベッドの回り、見渡す限り犬、犬、犬で……」
その瞬間、かぎなれた臭いがとんでもない悪臭に思えた。
「結局、ジョンって獣臭かっただけなんですよね」
そう言う袴田さんは、どこか哀しくも、笑顔である。
翌朝、なにがあったのかはわからないが、集まっていた多くの犬たちに祈った。
トリマーとして、今日もたくさんの犬たちを綺麗にする。
そこに、あんな臭いの犬は、いない。