川崎くんは昔、実家で犬を飼っていた。
 ある夜、その犬が、深夜やたら家の門に向かって吠えるので、眠い目をこすりつつ出てみる。門の外になにかがたっている。なにか、もじゃもじゃしたもの。
 信じられないくらい大きな白い犬だった。門の塀の高さに届くほどの大きさ。どう考えても異常である。しかし、当時子供だった川崎くんは特段それを不思議には思わず、「大きいなぁ」くらいの認識だった。怖いとも思わなかった。
 白い犬は出てきた川崎くんとその母親を一瞥すると、夜の闇に消えていった。あとから聞いた話では、母親は卒倒しそうになっていたのだとか。

 野良犬にしてはでかすぎるし、何より毛並みが物凄く綺麗だった。しかも、考えてみれば真っ暗な闇の中に立ってたはずなのに、はっきり見えた。
 白い毛一本一本が発光していたかのようだった。
「別に犬なんて好きじゃなかったんだけどな」
 そう言うと、犬を散歩する人たちに目をやった。
 日没になると、時々光る犬はいないかと目で追ってしまうのだという。

 飼われていた犬は、18歳の大往生だったそうだ。