西崎さんは営業で遠出することが多い。いま使っている車も、既に日本を3周するくらい走っている。
「車っていうのは、やっぱり凶器なんだよね」
 バックミラーにちらりと目をやり、そう言った。
「交番の前に、『本日の事故件数』とか言って、負傷○○人、死亡○○人とか出てるの見ると、乗ってて怖くなるんだよな」
 ナイフ持って人混み走るの想像してみてよ、と少し笑った。




 やたらあおってくるバイクだったという。
 夕方5時過ぎ、真冬だったからか既に真っ暗。異様に距離をつめてくるそいつに辟易していた。
 仕方なしに、減速して道を譲る。バイクは西崎さんの隣を抜けて、前に、……出なかった。
 確かにエンジン音と、横を通る何かの気配を感じたが、前にはなにも出てこなかった。ただ、暗い道路が伸びているだけ。




「バイクじゃなかった気がするんだよ」
 西崎さんは、信じらんないけど、と付け足して言った。
「チャリだった気がする」
 それが異常な速さでこがれたことで、地面とタイヤのすれる音がエンジンに聴こえてたんじゃないか、と。
「転職するときは、営業がない仕事にしたいな」
 道のわきを走る自転車を見つけると、必要以上に避けて、西崎さんは車を走らせる。