10年桜 4

「小嶋さん今日早番でもう終わりだよね」

「はい」

「ご飯食べに行かない?」

「あぁ・・・すみません友達と約束してるので」

「えぇ〜この前もそう言って断られたと思うんだけど」

「早番の時しか友達と遊べないので」

「じゃー今度の早番の時は俺に予約させてよ」

「先生この間渡辺さんとご飯行ってたでしょ」

「うっ、みんな平等に誘ってるから・・・」

「じゃー今度は伊豆ちゃんを誘ってあげてください」

「なかなか時間が合わないからなアハハハ(汗)」

「・・・伊豆ちゃん!」

「小嶋さんお疲れ様です♪」

「北川先生が今からご飯食べに連れて行ってくれるって」

「やったー!小嶋さんと三人ですか?」

「私は用事があるから帰るね、楽しんで」

「はーい!さようなら♪」





公園の前を通るとまだ桜は蕾


「今年は寒いから咲くのはまだまだか・・・頑張って」


蕾に向かって言葉をかけてる陽菜は危ない人かもしれない


もうすぐ陽菜も28歳になる

就職を期に家を出て今は一人暮らし

朝が弱いのは相変わらずでスマホのアラームは
五分ごとに何度も鳴らす

でもまだ遅刻したことはない・・・当たり前か(笑)


ピンポーン・・・


「はーい」

「うぅーさむ、三月も終わりかけなのに
何でこんなに寒いかな」

「寒いのにそんな薄着で出歩いてるからでしょ(笑)」

「だって昼間はこれで十分だったんだもん」


文句を言いながら入って来たのは腐れ縁のみーちゃん

卒業してからも何かと陽菜の面倒を見てくれている優しい親友


「冷えた体に鍋は美味しいしその後飲むビールも美味い(ΘωΘ) 」

「オヤジくさーい(笑)」

「オヤジくさいと言えばさ、来年でしょ」

「あぁ・・・うん」


あの手紙をみーちゃんにだけ見せた

だって預かってきてくれたのはみーちゃんで
何が書いてあったのかしつこく聞いてくるし
陽菜一人で抱え込むにはまだ幼過ぎたから・・・


「行くんだよね」

「とりあえず行って待ってようとは思ってる」

「でもさ、時間書いてなかったじゃん」

「朝からずっと待ってろって事かな?」

「十年待ってたんだから一日くらい
向うに待たせればいいんじゃない(笑)」

「待ってたわけじゃないけど・・・」

「結婚もせず待ってるんじゃん」

「みーちゃんだってしてないでしょ」

「私はもっと良い人が現れるの待ってるの!」

「そんな事してたら行き遅れるよ(笑)」

「お互い様(ΘωΘ) 」

「私はまだ働いて二年だしもう
少し仕事頑張りたいからしてないだけだもん」

「そう言う事にしといてあげる(ΘωΘ) 」



陽菜は何を待ってるんだろう・・・

あの手紙には十年後また会いたいって書いてただけで
もしかしたら向うが結婚してるかもしれない


そうだよ、陽菜何してるんだろう・・・バカみたい


「今度さ、お医者さん集めるから合コンしない?」

「え!?するする!陽菜の為に行ってあげる(ΘωΘ) 」

「何その上から目線(笑)」

「お医者さんかぁー・・・・
浮気されそうだけどお金もってるしなぁ・・・
あぁ、でも開業医じゃないと給料か・・・」


いきなり妄想の世界に入ってしまったみーちゃんを
可愛いなーて眺めていた

10年桜 3

「就活どんな感じ?」

「うーん・・・・就活はしてないかな」

「え!?なんで?」

「大学卒業したら看護学校に行こうと思ってるの」

「陽菜が看護師?」

「そんな驚かなくてもいいじゃん」

「いや、だったら大学行かずに始めから行けばよかったんじゃないの?」

「そう思い出したのは三年生になる頃だったんだけど
とりあえずは卒業しないと勿体ないからってお母さんが言うから
仕方なく通ってた」

「仕方なくって(汗)」

「もし看護師の勉強について行けなかった時のことを考えて
大学卒業してたほうが何かといいからって」

「まあ、そうだけどさ・・・陽菜が看護師かぁー
診てもらいたくないかも(ΘωΘ) 」

「こっちから願い下げですー」

「でもなんかカッコいい」

「エヘッ(бвб) 」

「でも卒業旅行は行くでしょ」

「行くよ、大学卒業には変わりないし」






きっかけはテレビニュースだった


”戦場カメラマン大怪我”


優ちゃんの名前が出るんじゃないかと思ってヒヤヒヤしてた

男の人の名前が出て申し訳ないけど
優ちゃんじゃなくて良かったと思ってしまった

陽菜が看護師になっても
海外にいる優子が怪我をしたからって
すぐに手当てをしてあげる事は出来ない

わかってるけどならずにはいられなかった

それが何故かは自分でもわからないから
考えるのをやめ自分の気持ちに正直になろうと思った





そして明日で看護師になって丸二年が経とうとしている



「退院おめでとうございます」

「陽菜ちゃんのおかげだよ、ありがとね」


退院していく方みんなありがとうと言ってくれる
病気を治してくれてるのは先生なのにね(笑)



「陽菜ちゃん写真撮ろう、ママ撮って」


「はいチーズ」

「・・・・ママ下手(笑)」

「仕方ないでしょプロじゃないんだから」


プロか・・・・あなたはプロになれましたか・・・・
そしてちゃんと生きてますか・・・・




写真を撮られるたびに思い出す


「私の被写体になって貰えませんか?」


自己紹介からもうすぐひと月になろうとしていたゴールデンウイーク前
ホームルームが終わり帰ろうと立ち上がったら
目の前に来ていきなり言われた言葉


「誰が?」

「小嶋さん」

「なんで?」

「私の席から小嶋さんの斜め後ろ横顔が見えるんだけど
あまりにも綺麗すぎていつも見とれてたんだ」


確かに授業中たまに怒られてるよね?
ボーとするなって
かといって当てられたらちゃんと答えてるから凄いなーて思ってたんだけど
陽菜を見てたって事?


「あ、へんなモデルとかじゃないよ(汗)
自然の小嶋さんを勝手に撮ってもいい許可をもらいたいだけ
何も言わずに撮ったらストーカーでしょ(汗)」

「なるほど・・・・へんな写真撮らないんだったら別にいいけど
撮った写真は見せてくれるの?」

「膨大な枚数になるかけど
それでもいいならいつでも見せるよ」

「・・・・・わかった、いいよ」

「やったー!有難う(-∀-`) 」


本当にうれしそうに笑うから陽菜まで釣られて笑顔になる


「ところでゴールデンウイークは忙しい?
よかったらどこか遊びに行かない?」

「二人で?」

「嫌なら誰か誘うよ(;´-∀-)
ほ、ほらいろんな風景の所で小嶋さんを撮りたいかなーてアハッ」

「家でゲームでもしようかなって思ってただけだから
いつでもいいよ」

「マジ!?え、じゃー全部会ってくれる?」

「全部とは言ってないし(笑)」

「だよね(;´-∀-)・・・・ごめん・・・」

「大島さん暇なの?」

「小嶋さんの予定がいつ空いててもいいように
予定いれてないんだ(-∀-`) 」

「ふーん・・・家に来てくれるなら別にいいけど」

「行く!行く行く!ゲームしてるの見てる」

「ふふふ、一緒にゲームすればいいじゃん」

「だよね(;´-∀-)」

「へんなの(笑)」


家の住所教えたら同じ駅から乗ってるってわかって
それから反対なのに小嶋さんは朝が弱いからって
毎日迎えに来てくれるようになって・・・・


仲良くならないわけがないよね












10年桜 2

「陽菜!こっちこっち(ΘωΘ) 」

「凄い人だかり(笑)」

「誰がここに集合しようって言ったんだろうね」

「みんな来てるの?」

「殆ど来てるよ後は先生と優子と陽菜を待ってたんだけど
陽菜一人?」

「あ、うん・・・・優ちゃん用事あるみたいで
迎えに行けないって昨日言われたの」

「陽菜を一人で来させるなんて珍しいよね
急用だったのかな?」

「さあ?」

「みんな揃ってるかー」

「優子がまだ来てません!」

「大島は来ないぞ」

「うそ・・・・・なんで?」

「みんな聞いてなかったのか?
親の転勤でフランスについて行くから
今日の昼の飛行機で出発したぞ」


みーちゃんを見ると首を振っていて
仲の良かった才加や佐江ちゃんも顔を見合わせ驚いていたから
みんな知らなかったんだと思う


「陽菜」


みーちゃんに腕を掴まれみんなから少し離れた所へ連れていかれ


「これ、昨日の帰り、陽菜に謝恩会が終わって
帰る時に渡して欲しいって頼まれたんだけど今の方がいいかなって」


そう言って差し出された封筒


「自分で渡しなよって言ったら
恥ずかしいからって照れながら言うから
そういう手紙かと思ってたんだけど違うのかな(汗)」


そういう手紙ってどういう手紙の事なのかわからないけど
みんなに見えないように封筒を開け中の手紙を読む




親愛なる小嶋陽菜様


何も言わずに行ってしまう事を許してください

先生には恥ずかしくて両親の転勤と言いましたが
にゃんにゃんには本当の事を知っておいてもらいたいから言うね


私が写真を撮るのが大好きなのはみんな知ってると思う
でも本当に撮りたいのは普通の写真じゃなくて・・・
綺麗な写真じゃなくて・・・
貧困な国の現状や戦争に巻き込まれた人々の姿を撮りたい

そう思いだしたのはある雑誌を見た高校二年の夏ごろ
その写真家にずっと手紙を書き続け、熱意が伝わり
それほどまでに言うなら、と
弟子にしてもらえました
その人は世界中を飛び回り日本には年に数回しか戻って来ない人なのに
私の高校卒業の為に戻ってきてくれていたので
もう一日待ってくださいとは言えず
謝恩会に出席することは叶いませんでした

最後にみんなとバカしたかったなー

にゃんにゃんは楽しめましたか?
楽しかった後にこんな手紙を渡され
無理やり読ませてごめんね

でも、どうしても陽菜には知っておいて欲しかった

そして十年後

まだ私の事を覚えていたなら
少しでも気にしてくれていたなら
私の事が少しでも好きだったなら

十年後の今日、駅の近くにあるあの公園に

陽菜と少しでも一緒に居たくて
変なことばかり言って笑わせていたあの公園に

桜の花びらが鼻の先に乗って笑いあった
あのベンチに座って待っていて下さい

それまで・・・・バイバイ


大島優子



「バカじゃないの、その日雨が降ったら座っとけないじゃん(涙)」

「陽菜?」

「居ない人は仕方ないんだからみんなで楽しもう(бвб)」

「う、うん・・・」


今度は戸惑うみーちゃんの腕を陽菜が掴み
みんなの方へ戻った

10年桜 1

「出席番号4番大島優子です

動くのが大好きで止まると死んじゃいます」

「こらこら、自己紹介で縁起でもない言葉を言うんじゃないぞ」

「そうですよね、これからは気をつけます
あと趣味は写真を撮ること」

「写真て止まってないと撮れないんじゃないの?」

「秋元さんだっけ?いいところに気がついたね(笑)」


入学早々の自己紹介であっという間にみんなの注目を集め
人気ものになった大島さん


「出席番号8番小嶋陽菜です
宜しくおねがいします」


「・・・・・・・え?それだけ?」

「・・・・・・・趣味とかありません」

「アハハハは小嶋さんて面白いね(-∀-`)」

「普通だし(бвб)」


これがはじめての会話だった


ぜんぜんタイプの違う陽菜と優子が仲良く?なったのは

多分優子が毎日挨拶してくれて・・・・
優子の友達が陽菜の友達になり
平凡に過ぎていたであろう陽菜の高校生活は
思いでのたくさん詰まったかけがえのないものになった


そして陽菜は大学生になり優子は・・・・


「珍しい、陽菜が大学へ来るとかもうすぐ雨降るんじゃない?」

「うっさいなぁー
陽菜だってちゃんと出席日数考えてるんだから」

「だよね、じゃないと卒業できないよねぇ(笑)」

「みーちゃんこそ単位落としそうじゃん」

「その時は二人でもう一年行こうね(ΘωΘ) 」

「やだ〜陽菜はちゃんと卒業して次の一歩を踏み出すんだから」


みーちゃんは高校の時からの友達で
みーちゃんも先に優子と仲良くなってから
陽菜と仲良くなったうちの一人


「卒業と言えばあれから四年・・・・優子何してるんだろうね」

「さぁ?あちこち飛び回ってるんじゃないの」

「陽菜にも連絡来ないの?」

「来るわけないじゃん、みーちゃんにさえ来ないのに」

「そうかな、陽菜には来ると思ってたんだけどね」

「なんで?」

「なんでって・・・・一番仲良かったでしょ?」

「そんなことないよ、みんなと同じだし」






高校の卒業式が終わり返る電車が同じ陽菜達は
いつものように一緒に帰った


「にゃんにゃんめちゃくちゃ泣いてたね 」

「優ちゃんだって泣いてたじゃん」

「アハッ見られちゃってたんだ」

「卒業したっていつでも会えるのになんで泣いちゃうんだろう」

「高校生活はもう戻ってこないからじゃないかな」

「そっか・・・そうかもね」


いつものようにごく普通の会話


「明日の謝恩会何時からだっけ?」

「五時に渋谷のハチ公前」

「なんか、ベタ(бвб) 」

「わかりやすいからね」

「何時に来る?」

「あぁ・・・・・ごめん明日は迎えに行けないや
みーちゃんを迎えに行かせようか?」


行事があると絶対に迎えに来てくれてたんだから
この時におかしいって気づくべきだった


「いいよ、渋谷くらい一人でいけるし」

「ごめんね」


眉毛をハの字に下げ申し訳なさそうにごめんと謝る優子

同じ駅で降りるけど家は反対方向
でも話が尽きないしもっと聞いていたくて
いつもならすぐに別れないのに
今日は言葉も少なくて黙ったままじっと立ち止まってるから
用事でもあるのかなって気を利かせたつもりだった
どうせ明日も会うんだしって・・・・でも


「じゃー明日ね(бвб) 」

「アハッ、バイバイ(-∀-`) 」


これでもかっていう笑顔でバイバイと言った姿が
陽菜が最後に見た優子だった

もちろんそれから誰も優子を見てないから
陽菜が一番最後に話した人になっていた


10年桜   プロローグ

親愛なる小嶋陽菜様


この手紙を読んでいるという事は

あなたが結婚しているか
私がこの世にいないかのどちらかだと思います

出来れば後者でありたい・・・・

じゃないと私は死んでるのと同じだから


自分勝手なことを言わないでとあなたは怒るかもしれない


何度も手紙を書こうと思いました
何度も会いに行こうと思いました
何度も電話しようと思いました

アドレスは消してしまったけど
あなたの電話番号は忘れたくても忘れられない数字だから

でもそれらをする事は出来ませんでした

顔を見てしまうと

ううん、姿を見てしまうと決心が鈍ってしまうから
声を聴くと甘えてしまいそうになるから・・・・


ごめんなさい




出会ったあの日・・・
あなたは知らないと思うけど
入学試験の時に初めて見た時から気になり始め
入学式の日クラスで見た時は運命だと一人で勘違いしたほど
ずっと好きでした


卒業式の日、バイバイと言ったあの時から
会えなかった今日まで考えなかった日はありません


約束の日、会えていたら言いたかった



大島優子は

世界中の誰よりも

小嶋陽菜のことを愛しています

だから、私が死ぬまで隣りにいてください!


      と



素晴らしい青春の日々を有難う

そしてバイバイじゃなくちゃんと言います


さようなら



大島優子






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