陽菜のパパはお人よしすぎる


ママは陽菜が赤ちゃんの時に死んじゃったらしく
男手ひとつで育ててくれたパパ

ドアもない四畳半の小さなたこ焼き屋だけど
贅沢さえしなければ二人で暮らしていけた

でもパパはお人よしだから


「まて、チビ」

店の前の薬局屋さんから飛び出してきた小さい男の子
おじさんに掴まり盗んだ何かを取り返されていた

「警察に突き出してやる」

「洋さん落ち着けってまだ小さい子供じゃないか」

「泥棒は泥棒だ」

「ボウズ何を取ろうとしてたんだい」

「・・・・・・・」


俯いて何も言わない男の子


「誰か病気なのか」


「お母さん・・・・」


小さな声でそう囁く


お父さんはポケットからお札を出し洋さんに差し出すと


「これで足りるか」


「こんなやつに買ってやるのか」


「今日だけだ」


後ろを振り向くと


「陽菜2パックもってこい」


言われるままたこ焼きを詰め袋に入れ渡すと
そこに薬の箱をいれ


「もう泥棒はするなよ」


コクンと頷くと何も言わずに走って逃げていった


「お礼ぐらい言えばいいのに」

「良いじゃないか、さあ仕事仕事」


そう言うとまたたこ焼きを焼き出した


それからも貧しい人がいればタダで食べさせてあげてる

だから毎日沢山焼いてるのに全然潤わない生活

それでも楽しそうに焼いてるパパの後ろ姿を見るのが好きだった




「陽菜はいい加減に結婚しなさい」

「だっていい人いないんだもん」


パパよりいい人なんてこの世にいないと思う
だから陽菜はずっとパパといるよ

そう思ってたのに


バタン!!

家の中で昼食を作っていたら

大きな音がしたから慌ててお店に見に行く



「パパ、何か倒した?・・・・パパ何処」


背が高いはずなのに姿が見えなくて
いつも立って焼いてる場所を覗いたら


「パパ!!」


コンクリートの上に仰向けで倒れ頭からは血が流れていた


救急車で運ばれた病院で傷の手当と検査をしたら
頭に腫瘍が見つかった


「父を助けて下さい」

「今日は脳外科の先生が学会に行かれていてなんとも言えませんが
この腫瘍が血管を圧迫して意識を失われたんだと思います」

「手術できるんですか」

「あの先生なら出来るとは思いますが
手術には高額な費用がかかりますよ」

「いくら位いりますか」

「100万は見ておいて下さい
まあ、高額医療請求をすれば半分は戻ってくるとは思いますが」


そんなお金うちにあるはずがない

病室へ戻りパパの手を握りゴメンと言いながら泣いた
泣きつかれて眠ってたみたいで
外は暗くなっていた


「帰らなきゃ」


店をそのままにして出てきたからもしかしたら泥棒が入ってるかもしれない
まあ、取られるものはなにもないけど


「パパまた明日来るね」


帰ろうとした時白衣を着た人が病室に入ってきた


「小嶋さん」

「はい」

「担当医の大島優子です」


立っていたのは陽菜より背の低い女医さんで


「お父さんの腫瘍は一刻を争います
明日手術をしましょう」

「ありがとうございます
でもうちにはお金が無いのですぐには無理です
この入院費だけでも精一杯なので」

「お金はなんとでもなりますが命はひとつしか無いんですよ」


何かを売ってお金を作ろうにもお金になるようなものはなにもない
家は売れない、だってパパの生きがいだから

あ、一つだけ売れるものがあった
まっさらな・・・・・・


手術が成功したら・・・・



「・・・・・わかりました、よろしくおねがいします」



はぁ・・・・好きな人1人くらい作っておくんだったなぁー