手術室の前で祈りながら待った


「先生」

「手術は成功しました」

「ありがとうございます」

「意識が戻るまで個室に入ってもらいます」


そんな事したらまたお金がかかっちゃう


「出来れば大部屋で・・・」

「小嶋さん、今はお父さんの為にベストの状態を維持したいので」


そうだよね命の方が大事だもん
陽菜が我慢すればいい事だから


「よろしくお願いします」


どれだけ請求が来るんだろうか・・・


「小嶋さんこの病院は完全看護なので
お家に帰って頂いても大丈夫ですよ」


様子を見に来た看護師さんにそう言われたけど
店を開けようにも粉の調合はお父さんしか出来ない
陽菜がしたって同じ味は作れないからきっと売れない


それに家にいると光熱費もかかるし・・・・


「あのう、いつ退院できますか」

「先生に聞いてみないとわかりませんね」

「・・・・・・大体でいいんですが請求はどれくらいかかりますか」

「それも私には・・・・先生に伝えておきますので」

「よろしくお願いします」


消費者金融に借りるにしても
返せる当てもない

やっぱり陽菜が・・・・

初めては好きな人としたかったな
もう遅いけど・・・・

そういうお店のチラシを何枚か集めて来た
どこがいいのかわからないけど
なるべくお金がもらえるお店にしよう

そのチラシを見ながら眠ってたみたいで
目が覚めたら借り請求書と書かれた手書きの紙が
綺麗に重ねられたチラシの上に乗っていた


「・・・・・0円?」


貧乏だからってバカにされてるの(怒)

破り捨てようと手に取ると紙は二枚あって
二枚目には


”治療費は20年前に頂いています”


どういう事?


お父様のおかげで私の母は苦しむことなく逝く事が出来ました
他人に優しくされたのは初めてで
お礼も言わず逃げてしまい申し訳ありませんでした
母が亡くなってからお礼を言おうと店の近くまで
何度もお伺いしましたがまだ幼かった私は声をかける事が出来ずにいて
孤独になった私は遠くの施設に預けられることになり
行く事が叶わなくなりました

お父様のおかげで私も人を助けたいと思うようになり
医師を目指し先日この病院に赴任してきた所でした

そのタイミングで小嶋様が少し離れたこの病院に運ばれてきたのは
やはり運命と言うほかないと思い全身全霊をかけ治療していく所存です。

担当医 大島優子


あの時の男の子・・・・女の子だったんだ
それに小さい子供だと思ってたけど・・・いくつだったんだろう


コンコン・・・・

「小嶋さん体温測りますね」

「あのう、大島先生は」

「昨日夜勤だったのでもう帰られたと思いますよ」

「住所教えて頂きたいんですが」

「それは出来ませんよ(笑)」

「ですよね・・・・」

「先生は今おいくつなんでしょうか」

「確か・・・・今年30歳になるって言われてたと思いますけど」


陽菜と同い年じゃん
うそあの時どう見ても小学生には見えなかったのに(汗)

「先生夜勤の帰りには
いつも同じカフェでコーヒーを飲んで帰られてるから
もしかしたらまだいらっしゃるかも」


その場所を聞き病室を飛び出る


目の前に行くと丁度お店から出て来たところで

「はぁはぁはぁ・・・大島先生(汗)」

「小嶋さん・・・どうされたんですか
まさか容体が急変・・・」

「大丈夫です、あのう・・・・手紙読みました」

「あぁっ・・・・そう言う事なので気にせず
完全に治るまで病院にいて下さい」

「でも、薬ひと箱とたこ焼きだけしか差し上げてないのに」

「あの頃の私達には今の治療費なんかより
もっともっと高価な・・・価値のあるものでした
何も食べれなかった母がたこ焼きを食べ
美味しいね、と微笑んだ顔が今でも忘れられません」

「でも・・・・・」

「もし気が咎めるならそうだな・・・・
今度私に陽菜さんの焼いたたこ焼きを食べさせてください」

「私が作るのは美味しくないと思います」

「気持ちがこもっていれば美味しくないものなんてありませんよ」

「わかりました、もし今日予定が無いのならお店に帰って作りますが」

「それは嬉しいですね是非(-∀-`)」







「陽菜、お父さんが来るんだから早く起きて」

「う〜ん・・もう少し・・・」

「だーめ、ほら早く」

「優ちゃんが昨日なかなか寝かせてくれなかったからでしょ」

「仕方ないじゃん学会とか興味ないのに無理やり行かされてさ
それも日本じゃないからすぐ帰って来れないし
一週間ぶりの陽菜の身体だよ、止まるわけないじゃん」



あの日・・・たこ焼きを焼いてあげた日にいきなりプロポーズされた

店に来ていた時ずっと陽菜を見ていたらしい

自分がもっと立派になって
次に会えたらプロポーズしようと思ってたんだって


「ねえ、陽菜がOkしなかったらどうしてたの」

「決まってるじゃんOkしてもらうまで毎日プロポーズしてたよ」


何故かあの日、
少ししか話したことのないこの人のプロポーズを二つ返事で受けた陽菜

陽菜の直感がこの人しかいないって訴えかけて来て
人柄も性格も何も知らないのにお願いしますと返事をしていた


お父さんは相変わらずあの場所で今日も元気にたこ焼きを焼いている
そして相変わらず困ってる人にはタダでたこ焼きをあげていた

ただ違うのは家が綺麗になり、
お店らしくなってちゃんとした椅子やテーブルも置いている

そして

「お父さんお母さんいらっしゃい(-∀-`) 」

パパも新しいパートナーを見つけ
二人で店を切り盛りしている


陽菜に幸せをくれた優子に
ありったけの愛情を注いでいこう

それが陽菜からのreciprocateだから


おしまい
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