「あのう、施設のば・・・」

「おはようございます」

「あ、大堀園長おはようございます」

「園長って・・・もしかして優子の」

「あなたは・・・・小嶋さんかしら」

「はい!小嶋陽菜です」

「そう、あなたが・・・優子がお世話になりました」

「どうして過去形なんですか」

「少しいいかしら」

「はい」

休憩室みたいな所へ移動して
自販機でコーヒーを買う


「会社はどうされたんですか」

「今日は休暇で・・・人間ドックの申し込みに来たんです」

「そう・・・・・」

「優子の事教えてください」

「あの子は言わないで欲しいみたいですけど」

「こんなに心にズカズカ入り込んできて
いきなり行けませんと言われて
ハイそうですかなんて言えると思いますか」

「そうね・・・・・分かったはついてきなさい」

「また午後に来ますわ」

もう一度ナースステージョンへ戻り
そう言って病院を出て電車に揺られ
30分ほどで着いた場所は

「ここが施設ですか」


そこは決して綺麗とは言えないコンクリートでできた古いホームで
大きな地震で潰れてしまいそう・・・

「そんなに簡単には潰れないわよどうぞ(笑)」

考えを見透かされ恥ずかしくなる


「先生おかえりなさい♪」

「ただいま」


どう見ても幼稚園くらいの子供3人と3,4歳位の子供が1人

それと

「早かったね・・・・この人だれ」

「お客様になんて口の聞き方ですか」

「みんなおいで」

「こら敦子、ほんとにもう・・・
ごめんなさいねわがままに育っちゃって
娘の敦子よ」

「園長先生のお子さんですか」

「そう、旦那は居なけどね(笑)」


「どうぞ」

そう言ってお茶を出され

「なにを聞きたいのかしら」

「全部」

「そう・・・・」


優子は施設の前に捨てられてたという事

(これは嘘じゃなかった)

施設は高校生を卒業とともに出ていかないといけない事

(これも嘘じゃなかった)

優子は高校を卒業してすぐ就職し
住み込みでここの手伝いもしていたという事

(だから家事が得意だったんだ)

ある日倒れて病院へ運ばれ病気がわかった事

「白血病・・・・」

「よくわかったわね、すぐ入院して治療し一度は退院して暮らしてたの
でも・・・・
再発しちゃってね、見ての通り貧乏な施設でお金はないし
何より優子の血縁者が何処に居るかわからないから手術もできないし・・・」

「でも骨髄バンクとか有るじゃないですか」

「もちろん登録してるわよでもねそんな簡単に見つからるものじゃないから」

「そんな・・・・・」

「病気になってからも明るくて弱音なんて全く吐かない子でね
病気の事を知ってるのは私と娘の敦子だけ」

「今クリーンルームに入っていて面会できないって」

「そうね、もう出れないかも」

「先生は・・・・」

「最善は尽くしますとだけ」

「・・・・・・・」

「優子はこの人の何処がいいわけ、普通の人じゃん」

「これ、敦子(怒)」

「こんな人のために自分の寿命縮めて馬鹿みたい」

「向こうへ行ってなさい」

「寿命を縮めたってどういう事」

「入院して放射線治療してたのに・・・
治療をやめなかったらもっと長く生きれたのに
こんな人のために・・・・優子が可愛そう」

「いい加減にしなさい」

「お母さんの馬鹿!」


部屋を出ていった娘さん


「優子は何処で私を見ていたんでしょうか」

「入院していた部屋からちょうどあのコンビニエンスストアが見えるのよ
ああ見えて人間観察が好きな子でね
そこであなた・・・小嶋さんを目で追うようになって
好きになってしまったみたい
ふふ、優子の初恋なんだそうよ」

「私が初恋・・・・」

「この年でって思うかもしれないけど
本当に施設のために学生の時はバイトして
就職してからも遊びにも行かず子供たちの相手をしてくれて・・・
だから、あの子から最後のお願いって言われた時
ダメって言えなかったのよ、母親失格ね(笑)」

力なく微笑み涙を流しながら話してくれた園長先生

「想いが叶わなくても、ただ、生きてる時間一緒にいたい
好きな人と同じ時間を過ごしたいって言ってたわ
だいぶ迷惑をかけたんじゃないかしら
親代わりとして謝ります」

そう言って頭を下げるから

「頭を上げてください
迷惑だなんて思ってませんから
私も優子のことが好きです」

「小嶋さん・・・・・ありがとうございます
優子がその言葉を聞けたらどれだけ喜んだか」

「聞けたら?・・・・今聞けたらって言われましたか」

「そう、優子は小嶋さんのところから帰ってきてすぐ倒れ
眠ったままなんです」

「でもメールが・・・・」

「あれは娘の敦子に送らせたものなの」


そんな・・・・・・優子