頑張った向こうには 11

陽菜


その日の夕方医局に用事があり受付の前を通ったら
彼女がさつきちゃんを連れてウロウロしていた

嘘でしょ(汗)他の人にうつっちゃうじゃん

お母さんもすぐに気がついてさつきちゃんを別の場所へ連れて行く

風疹大人でもなるんだよ、それも子供より酷いんだから
病院にはいろんな病気の人が来る
陽菜達は予防接種をしてるから感染しにくいけどあなたは?

もう二度とここへは来ないようにキツく注意をした
その次の日から部屋の机の上にお弁当が置いてあることは無くなった



それから二週間後

「新婚旅行?」

「そうよ、式をしたあとはやっぱり新婚旅行でしょ♪」

「一週間以上って・・・決めてないの?」

「カジノに行って馬鹿当りしたら伸びるかもしれないわ」

「ちょっと待って・・・じゃー家には」

「そうなのよ、優子ちゃん一人になっちゃうから
あなたちゃんと帰ってあげてね、夜勤の日は仕方ないけど
一人でも大丈夫って言ってるみたいだけどまだ高校生だし
女の子一人じゃ心配でしょそれにめーたんが言ってたんだけど
結構怖がりみたいなのよね」

「・・・・・・」

「ねえ、陽菜」

「ん?」

「妹と言っても籍は入ってないんだからいいのよ」

「・・・・どういう意味」

「跡取りの事は気にしなくてもいいのよ
結婚していても子供が出来ない夫婦なんて沢山いるんだから」

「ま・・・・ま?」


「何十年あなたの母親をやってきたと思ってるの
あなたがあんな態度を取るのはそういうことなんでしょ」

「っ・・・ごめんね」

「あなたが医者になってくれただけでも御の字なのに
それ以上何も望まない
陽菜には幸せになって欲しいから・・・私みたいにね」

そう言って抱きしめてくれた

「ありがとう・・・」

「居ない間に修復しておきなさいよ
ただし!優子ちゃんが嫌がるようなことはしないようにね
優子ちゃんが男の子が好きならあなたはいいお姉ちゃんになりなさい」

「わかってる・・・・」

一気に肩の荷が降りた気がした


ママたちが出発する日、家にかえるために前の日の夜勤から引き続き
日勤もこなしくたくたになって家にたどり着いた途端
安心したのか玄関で寝ちゃってたみたい

優子に起こされたけど眠気が勝って体が起きてくれない
そんな陽菜を優子は二階まで運んでくれた
小さい体のどこにこんな力があるんだろう・・・
寝てたからなのか体温が高い気がするし
息も少しあらいような・・・

ドアを開け中に入ろうとした時

「えっ・・・キャッ」

そのまま二人で倒れ込む

「イッタ・・・・・ちょっと・・・・ちょっと、優子」

仰向けにすると赤い顔
首筋に手を当てるとすごく熱くて・・・
優子を抱き上げそのまま優子の部屋へ運んでベットへ寝かす

下へ行き冷却シートと体温計、スポーツドリンクを持ち部屋へ

体温を測るためにパジャマの前を開けると・・・

もう、だから言ったじゃん(怒)
病院で薬もらってこなきゃ

眠気も何処かへ吹っ飛んじゃったし車で行こうと思って
部屋を出ようとした時

「・・・・えちゃん」

「え?」

起きたのかと振り返ると

「おねえー・・ちゃん・・・」

「寝言?」

めぐみさんじゃなくて陽菜を呼んでくれるんだ・・・

ベットへ近寄り手を握り頭を撫でてあげるとフッと笑い
安心したような顔をしたように見えたからそのまま少し
眺めているといつの間に寝ちゃっていたみたい




頑張った向こうには 10

陽菜


明日お母さんの大切な人とその娘さんに会わせたいから
いつものお店に7時までに来ておいてね

いきなりそう言われてハイそうですかと行けるわけがない

だから急患が入ったと嘘をついて病院の部屋に居た


私が中学三年生のとき医院長だったお父さんが亡くなり
副院長だったお母さんが医院長になった

今まで以上に忙しい日々を送っているお母さんを助けてあげたいと思って
医師を目指し子供が大好きだった私は小児科医になった

まだ駆け出しだから忙しくて家に帰らないことが多い
病院にいるほうが勉強になるし何かあったらすぐ見てあげれるから


病院の娘だということを大いに利用して
新米医師なのに個室をもらいそこで寝泊まりする日々

それでもお母さんのために週2・3日は帰っていたのに
いきなり大切な人が出来たから会えと言われて
会えるほど陽菜は大人になりきれてなかったみたい

なのにすぐ一緒に住みだし一人っ子だった陽菜に妹が一人出来た



まだ気持ちの整理ができていなかったし
本当に忙しいのもあって今まで以上に家に帰らなくなっていた



めぐみさんはもともと患者さんだったし
たまに病院に来ていたから顔は知っていた
でも仲のいい友達なんだと思っていた

結婚式の日初めて妹になる娘を紹介されたとき
高校3年生だと聞いていたのに小さくて中学生くらいに見えた

「はじめまして大島優子です」

瞳は大きくて薄茶色のクリクリした目
ニカッと微笑んだ両頬にできるエクボ
少し出た大きめな前歯

極めつけは

「お姉ちゃん」と呼ぶ少ししゃがれた声に
陽菜の心臓はこれでもかっていうくらい早く打ち付ける

バレないようにポーカーフェイスでよろしく、と言うのが
精一杯だった

だって陽菜は・・・・・



保育園の頃毎日男の子からいじめられていた
スカートめくられたり
先生に可愛く髪の毛を三つ編みしてもらっても
すぐくちゃくちゃにされたり
泥を投げつけられたり・・・

今なら小さい子が好きな子にするいたずらだったとわかるけど
あの当時は本当に嫌で保育園に行きたくないとよく駄々をこねていた

だから男の子のことが大っ嫌いになって
好きになるのはいつも女の子だった

でも、陽菜は一人っ子で病院の跡継ぎを産まないといけない

これでも学生の頃はモテたから男性とも付き合ったけど
やっぱり無理だった・・・
触れられるだけで鳥肌が立つし
キスをされたときなんて吐きげがした




式が終わり二人っきりになった時
マシンガンのように話しかけて来る彼女

身振り手振りですごく楽しそうに話す姿を見て
自分に言い聞かす

(彼女は妹、駄目だよ陽菜)

これ以上関わると自分を保てなくなる
彼女にはなんの罪もないけど一線を置くために
強い口調で言い返すと
眉をハの字に下げ必死に笑顔を作ってるのがわかった
その笑顔の中に悲しさが見え
それにキュンとしてる自分に笑いそうになる

これから毎日家にいるんだよね・・・・・自信ない
だから今まで以上に家に帰らず
帰っても寝るだけで朝会わない時間に出かけてたのに

こっちの気も知らないでお弁当を作り病院に持ってくる彼女
あんなことするつもりはなかったけど下に落ちてしまった(汗)

おかずを拾う背中を見ながら心を鬼にして
もう二度とこないようにきつく言ったはずなのに・・・

健気にお弁当を運ぶ彼女に根負けして
蓋を開けてしまったのが間違いだった・・・

これ、彼女が作ってるの?めぐみさんじゃなくて?

感心していたら腕が伸びてきてあっという間にプチトマトを取られた

「ちょっと、やめてよ(怒)」

「美味しそうじゃん、いらないなら食べていい?」

「だめ!て言うか勝手に入ってこないでよね(怒)」

「はいはいわかりましたよー」

出ていったのを確認して蓋を締めもとに戻しておいた

頑張った向こうには 9

おでこが冷たくて気持ちいい・・・それに・・・
いい匂いがする

ゆっくり目を開けると・・・いつもの天井が見える

今何時だろう

時計を見ようと横を向くと栗色の髪の毛がみえた

私のベットにもたれかかるようにして眠る・・・お姉ちゃん?

えーと・・・あれ?私たしか・・・

そうだ、物音がして降りていったら玄関にお姉ちゃんが倒れてて

なんで私がベットで寝てるんだろう・・・・?
それになんでお姉ちゃんが私の部屋にいるんだろう・・・

はっきりしない記憶を必死に取り戻していたら
顔を上げたお姉ちゃんと目があった

「・・・気分・・・どお」

「あ、えーと・・・なんか少しだるいかな?」

そう言うと手が伸びてきて首にヒヤリとした感触が(汗)

「だいぶ熱が上がってきてるみたいだね」

首で熱を測るんだ・・・それにお姉ちゃんの手冷たくて気持ちいい(-∀-`)
なーんてボーと考えていると

「起きれる?」

「うん」

上体を起こすとスポーツドリンクを渡されたから口をつける

そういえば今何時だろう・・・時計を見ると

「ヤバッ(汗)学校!」

慌てて起きようとしたら静止させられ

「一週間登校禁止」

「え?なんで」

「風疹にかかってる、だから病院に来るなって言ったでしょ(怒)」

「あっ・・・・嘘(汗)」

そういえば迷子だと思ってた子供風疹だって言ってたっけ・・・

ほんとに子供じゃん・・・最悪

「ごめんなさい・・・私って本当にダメダメだよね・・っ」

泣いちゃダメ!ここで泣いたらもっと嫌われちゃう

窓の方を向いて必死にこらえていたら
頭を優しく撫でられて

「薬もらってきてあげるから大人しく寝てるんだよ」

コクンと頷き体を横にする

「迷惑ばっかだね・・・ごめ・・ん・・・ね」

「・・・・・・・」

「こんな妹いらないよね、っ・・・嫌われても・・・仕方・・ないよね」

「・・・・・・・」

腕で目をおおい唇を噛み締める

頬がヒヤッとしたから腕を少しずらすとお姉ちゃんの顔が目の前にあって
どんどん近づいてきて唇に・・・・

目を大きく見開いて固まっていると

「キスされる時は目を閉じるんだよ」

「え、えぇ?(汗)」

き、キス?やっぱりいまキスした?え?なんでえ?

アウアウしているといつも子どもたちに見せている
優しい目でフッと微笑み部屋を出ていった

・・・・・・これって・・・・意識が混濁してる?
私きっと夢見てるんだ
お姉ちゃんが私にき、き、キスして微笑みかけるわけがないんだから

そうだよ夢だよ!夢ならもっと仲良くなりたかったなー
続き見れるかな・・・・そう思いながら目を閉じた

頑張った向こうには 8

あれから一週間

普通の生活に戻りお母さんのお弁当を学校に持って行く毎日

その間お姉ちゃんと顔を合わせたのは
みんなで夕食を食べた一回だけ・・・

ママとは相変わらず笑顔で話してる
なのに私の事は見ようともせず・・・
嫌われてる上にあんな失敗しちゃったんだからもう無理かな・・・


事件はそれから1週間後に起きた


「新婚旅行!?」

「そうなのよ、私はいいって言ったのに瞳ったら
結婚式の次は新婚旅行でしょって言ってくれて」

いつの間にか瞳呼びになってる・・・

「どこへ何泊行くの?」

これは死活問題だ(汗)

「二人とも若くないでしょ、長時間のフライトは疲れるから
シンガポールくらいがいいわねってなって」

アメリカやヨーロッパよりはまだ近いよね(汗)

「それでね、あの有名な”マリーナベイサンズ”に
二泊も泊まるのよ♪」

「うそー!あそこなかなか取れないし高いんだよ(汗)」

「いつも美味しいご飯を作ってくれてる御礼よ、て言ってくれて」

凄く嬉しそうなママ・・・二泊って事は三日か四日だよね?
それくらいなら何とか過ごせそう

「良かったね、楽しんできて(´-∀-)」

「ありがとう、ただねあなたの事が心配なの
陽菜ちゃんは夜勤とかあるでしょ」

「3・4日なら大丈夫だよ(´-∀-)」

「誰が3・4日って言ったの?」

「え?違うの(汗)」

「カジノにも行きたいわねってなって
10日間は帰って来ないわよ」

マジですか・・・(汗)でも

「私もう高校3年生だよ心配しないで」

「そうよね、ご飯も自分で作れるし大丈夫よね?」

一人はいいの
一人の時は少し怖いのを我慢すればいいだけなんだけど
お姉ちゃんが帰ってきたらと思うと気が重い

まあ、ほとんど帰って来ないだろうけど・・・
私の事が嫌いなんだからさ

2日後大きなスーツケースをトランクに積み込み
お土産期待しててね!と手を振る二人を一人で見送った

「さーてバイト行くかな」

なんだかすこし体がだるいけど行かなきゃ

「お疲れ様でしたー・・・」

ふー・・・やばいなんかダルさが増してる風邪かな(汗)
今日は早く寝よ

真っ暗な家へ帰るのヤダなー・・・
無駄に広いんだよなー四人しか住んでないのにさ

玄関のかぎを開けすぐ明かりをつけてから鍵を閉める

お風呂どうしようかな・・・なんか熱っぽいし明日朝入ろ

歯と顔だけ洗い自分の部屋へ上がる
一応階段と廊下の電気は点けたままで・・・
だって怖いんだもん(汗)

パジャマに着替えベットに潜り込んだ



・・・・・・・・・・・・カチャ・・

・・・・ゴトン・・・

「・・・・・」

シーン・・・・

今なんか音がしなかった?
泥棒だったらどうしよ・・・
でも歩いてる音とか階段上る音はしてこない

何か棒のようなもの・・・
部屋を探すけどテレビでよく見るバットなんてあるわけがない
机の上にあった30p物差しを持ち廊下に出て音を聞く

・・・・・・なんか聞こえるような聞こえないような・・
階段の縁から下を見下ろすと誰かが玄関で・・・倒れてる?

ゆっくり近づいて行くと・・・「お姉ちゃん?」

死んでない…よね(汗)

物差しで少し突いてみると

「ウーン・・・」

良かった・・・寝てるんだ

靴を片方脱いだところで力尽きてしまったんだろう

「こんな所で寝たら風邪ひくよ」

「んん・・・・」

「ほら立って」

自分より大きなお姉ちゃんの腕を取り
起こそうとしたら軽くてびっくりした

寝ぼけながらも立ち上がったから肩を貸してあげて
部屋の前まで連れて行ってドアを開けようとした瞬間

「あれ?・・・・・」

めまいがして一気に体の力が抜け頭が真っ白になった

頑張った向こうには 7

日曜日は夜勤明けでお昼前に帰ってきてたみたいだけど
私が昼から夜までバイトだったから会えず

月曜日お弁当を作るために早起きしたのにもういなくて・・・


「行ってきまーす」

お弁当を二個持って家を出る

病院の部屋へ行ったけど姿はなく
テーブル真ん中にデン!と置いて部屋を出た

学校帰りに寄ると朝置いた場所にそのままの形で置いてある
お弁当箱のふたを開け何か食べてないかと確認するも
ぎっしり詰まったおにぎりとおかず・・・

「はぁ・・・まだ初日だもんね仕方ないよ」

自分いそう言い聞かせ部屋を出る

次の日も、その次の日も手つかずのままのお弁当・・・

「ごめんね、ちゃんと私が食べてあげるから」

お弁当に語りかけていると

カタッ・・・

後ろで音がして慌てて振り返ると

「わかったでしょ、私食べないからもう持ってこないで」

「気が向いた時に食べてくれたらいいから・・・」

だめ、泣いちゃダメ、私は無き虫じゃないもん

顔を見ることができず下を向いたまま部屋を出た


その次の次の日

あれ?・・・私プチトマト入れたよね?

おかずが入っている場所に隙間ができてあった

作った物じゃないけど蓋を開けてくれたことが嬉しくて顔がほころぶ

スキップしそうな勢いでフロアーを歩いていたら

「どうしたの?お母さんとはぐれちゃったの?」

冷却シートをおでこに張った小さい・・・
たぶん4歳くらいの女の子が一人で立っていたから
声をかけたら泣きそうな顔をしたから

「お姉ちゃんが一緒に探してあげる(-∀-`) 」

そう言うと小さくうなずく女の子

可愛いなー、お姉ちゃんが笑顔になるのもわかるよ(-∀-`)

手を繋いで待合室やお会計場所に行き

「どう?お母さんいた?」

しゃがんで女の子と話していると

「さつき!来たらダメじゃない(汗)
あそこで待ってなさいって言ったでしょ」

お母さんと思われる人が女の子を抱かえて
来た道を戻って行った

後姿をポカンとしながら見ていたら

「バカなの(怒)」

「え?」

「あの子風疹なんだよ他の人にうつったらどうするの(怒)」

「ごめんなさい・・・私知らなくて(汗)」

「関係者じゃない人が病院に出入りしてるからこんなことが起きるの!
もうここには来ないで(怒)」

冷たく言い捨て診察室へ戻って行った


私何やってるんだろう・・・

ほんとバカじゃん・・・


次の日からお弁当を作るのをやめた
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