優子

治療がひと段落して初めての外泊許可

アパートに帰り部屋の整理をした

と、言ってもそんなに多くない荷物だからまとめるのも簡単

またこの部屋に帰って来れる事あるのかなぁー

もしもの時はいとこの佐江に相鍵を渡してあるから・・・

次の日の朝、必要なものだけ小さな鞄に詰め
部屋を出ると雨が降っていた

傘立てにはビニール傘と
大学卒業と就職祝いを兼ねて
大切な人たちから貰った特別な傘

今日使わないともう、使う時がないかも・・・

大切な傘をさして病院へ向かう

駅からは濡れずに病院へ入れるから
傘をたたんで歩いていると
制服を着た女の子が急に走り出した

昔の私なら余裕でかわせていたのに・・・

少しぶつかってしまった

「きゃっ!!」

鼻に抜ける甘くかわいい声

「大丈夫ですか?」

顔を見ると「痛ーい(怒)」

唇を尖らせむっとしてる顔に一瞬にして心を奪われた

一目ぼれってこういうことを言うんだろう
私にはもう、関係ないけど・・・

「少しだけ痛いだけだから大丈夫かも」

変な日本語を使うところもかわいいと思ってしまった

おかしくて笑ってる自分に驚きながら手を差し出す

全身を見ると鞄しか持っていなくて・・・

そっか傘がないから走ろうとしたのか

「これ使ってください」

私が持ってるよりもこの子のほうが似合うと思うし
傘も喜ぶと思うから

「でも、あなたもぬれるじゃん」

病院を指さし

「濡れずに行けるから、ほら、早くしないと遅れるよ」

あ、ていう顔をすると

「お借りします」
ぺこっと頭を下げるとさして歩いて行った

お借りしますか・・・

もう会うことはないのに変わった子だなー・・・

でも・・・もう一度会いたい
会ってもう少し話してみたい

死ぬ前にもう一度だけ・・・
続きを読む