「ごはんだよ」

「ク〜ン」


あれからどれくらいの月日が経ったんだろうか

人間が素晴らしいと心から思えた次の日から
俺は犬のままで・・・

どんなに丸いお月さまが空に浮かんでいても
俺が人間の姿に変わることはなかった

それでも、もしかしたらって
始めの頃は毎日部屋へ帰るとすぐに寝ていたけど

いつからだろう寝なくなったのは・・・・

にゃんにゃんも自分の食事の用意しかしなくなって
俺にはもちろんドッグフード

たまに肉を買ってくれるけど
もう一度でいいからにゃんにゃんの手作りハンバーグが食べたい

そう願うのは贅沢なことなんだろうか


「もうすぐ優ちゃんの誕生日なんだよ」

「ワン?(そうなのか)」

「何食べたい?」

「ワンワン(ハンバーグが食いたいぜ)」

「と言っても犬用のケーキになっちゃうけど」

「ワン!ワン!(だからハンバーグ!)」

「ごめんね、わかんないや・・・・・」

「クゥ〜ン・・・・(そんな顔するなよ)」


くそーこんな思いするなら
人間になんてならないほうが良かった

なんで不完全な人間だったんだよ
ちゃんとした人間だったらもしかしたら俺の子を・・・


「優ちゃん・・・・そんな顔しないで」


震える声で俺を慰めながら抱きしめてくれるにゃんにゃん

その背中に腕を回すことなんて出来るわけがなく
涙を舐めるのが精一杯だった





ピンポーン・・・

休みの日一度起きて水を飲みまだ寝てるにゃんにゃんの顔を見ながら
舐めたい衝動を必死に抑えていたら玄関のチャイムが鳴った

「ん〜ん・・・・」


ピンポーン・・・


なかなか起きないからにゃんにゃんが悪いんぜ(-∀-`)
ここぞとばかりに顔をペロペロ♪

「んっ・・・優ちゃんやめなさい」


ピンポーン・・・・


「誰か来てたんだ・・・ありがとね」

「ワン(いいって事よ♪)」


起き上がったにゃんにゃんの横について
カメラを確認しに行くと


「お母さん・・・」


お母さん?にゃんにゃんのおふくろなのか?


玄関の鍵を開けるにゃんにゃんの隣で賢くおすわりしてお出迎え


「もしかして寝てたの?」

「休みなんだから別にいいじゃん」

「はぁ・・・・・・・」


俺を見ながらため息をつき


「こんな犬と一緒に暮らしてないで
あなたもいい年なんだからそろそろ孫の顔を見せてほしいわ」

「こんな犬じゃないし、優ちゃんは優秀なパートナーなの!」

「そんな事言ってるからいつまで経っても彼氏ができないのよ」

「まだいいし・・・・」

「そんなことだろうと思って今日は良い縁談持ってきたのよ♪」


そう言うとドカドカ上がり込んできて
写真を机に置き説明しだしたおふくろさん


「お見合いなんてしないよ、自分の彼氏は自分で見つけるから」

「もうすぐ30歳になるのに彼氏の一人もいない人が偉そうに言わないの!」

「一人くらいいるもん」

「・・・・・・あら、そうなの?いるなら紹介してよ」

「いまは・・・・無理」

「どうして?まさか刑務所に入ってるとか言わないわよね」

「捕まえた人とそんな関係になるわけ無いでしょ
同じ仕事をしてる人・・・・・かな」

「かなって・・・・・その人大丈夫なの(汗)」

「優秀で、何度も表彰されてる」

「じゃー何が障害なの」

「それは・・・・・私達の問題なんだからお母さんには関係ないでしょ」

「不倫じゃないでしょうね」

「違うし(怒)」

「本当にいるなら今年中に家へ連れてきなさい」

「・・・・・・・もういいでしょ、これから出かけるんだから帰って」


そう言っておふくろさんを追い出したにゃんにゃん


「クゥ〜ン(いいのか?)」

「気にしないで
弟もいるし孫の顔は見れると思うから」


俺がちゃんとした人間になれれば
にゃんにゃんに辛い思いさせずに済むのに・・・


お月様のバカヤロー(泣)